設計にあたって

古民家に一歩足を踏み入れ、静謐な空間の中で、耳を澄ますと木の囁きが聞こえて来る。木は伐採されてから100 年かけて強度が増え続け、その後緩やかに300 年かけて元の新材の強度に戻るという。

昨今の飛騨の木造建築事情を見てみると壁、天井はすべて新建材で覆いつくされ、木の良さを感じる部分を探そうとするのに一苦労する。

それと合わせ、民家建築の最高峰と称される、日下部邸、吉島邸で駆使された飛騨の匠の技も消えつつある。

そんな中、立ち上げたのが里山スティプロジェクトである。飛騨市の森林面積は市全体の90%に及ぶという。山深い岐阜の地で生きてきた木を使い、かっての名工、川尻治助や西田伊三郎の匠の技を少しでも後世に伝えたいとの、クライアントのささやかな願いである。

正面ファサードは古川に昔から伝わる不文律゛そうば“の精神を尊重し、一階入り口には、大戸を配し、吹寄せ連子格子を設け、2 階には板連子を配した。板連子の後ろは奥行1間の廊下を設け、春には古川びとが辛い冬をじっと耐え、待ちに待った、天下の奇祭”起こし太鼓を見物する格好の観覧席になる。

ファサードは敢えて軒高を高くせず、隣家の軒高と合わせることにより景観に配慮した設計としている。内部には古民家に使われる手法、厚鴨居、併せて小屋梁を中間で支える牛丸太を多用し圧倒的な木の存在感を漂わせた。

今回のプロジェクトが、やがては魅力ある町並みを形成する一つの核となることを信じてやまない。

時と時を繋ぐ仕事をさせて頂いている者にとっては新旧の町並みの継ぎ接ぎもまた、時間の積み重ねを現わしているように見える。これまでの町並みの記憶に、これから始まる町並みの時間が積み重なっていく。

この建物が、50 年後、100 年後、訪れる人たちにどのような囁きをしてくれるか楽しみである。

建築設計デザム
1級建築士 竹林 幸信