年神様とすごす飛騨の年取り

日本では、お正月が最も大切な日。普段は離れて暮らしている家族が故郷に集まり、新年を祝います。飛騨の人々も忙しい年末に明け暮れながら、昔からのしきたりに従い、新年を迎える準備をしてきました。前回ご紹介した花餅作りも、しきたりの一つですが、今回はその他のしきたりをご紹介します。

 

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竃(火の神様)にお供えした鏡餅とお神酒と蝋燭

 

飛騨では、鏡餅と花餅を作ることのほかに、「しめ縄」「すす掃き」や「松迎え」など、年末の準備が行われていました。

かつて、古民家では囲炉裏で薪を焚いていたため、天井や梁の上に溜まった煤を落とす「すす掃き」からお正月の準備は始まりました。併せて鍋の底についた煤も取り、囲炉裏の周りを清めます農家では、その年にとれた新縄でしめ縄を綯(な)います。お正月は神行事なので左ない縄、神棚や玄関、物置や車庫などの入り口に祀るよう必要な本数を各家々で準備していました。

掃除が終わると門松を立てるために「松迎え」を行います。日本では、お正月に豊作と家内安全を祈る年神様が滞在すると言われており、年神様が降りてくる目印として、家の玄関口に門松を立てます。また、冬に咲く花はないお正月、花餅と同様、松も特別に大切な飾りものの一つでした。松を特別なものと崇めているため、山へ行って切り出してくることを、「松迎え」と呼んでいます。

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お米屋さんの松飾り

家の玄関に松の枝を飾るのは、飛騨ならでは。クリスマスツリーのように飾りをする家もありました。

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飾りものを付けた松飾り

古民家が少なくなった現代では、「すす掃き」をする家は少なくなり、しめ縄、鏡餅、花餅、門松などは既製品を購入する家が増えましたが、昔ながらの農家では、今でも見ることが出来ます。

 

 

年越しの準備は時代と共に変化していますが、飛騨では、大晦日を元旦よりも大切な日として過ごす風習が昔から続いています。

昔は、正式なお誕生日の記録がなく、お正月に一つ歳をとることから、お正月を「歳取り」と呼んでいました。その名残として飛騨では年越しすることを「歳取り祝」と呼んでいます。

 

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(左)神棚、(右)御仏壇

午後になると、家長は全ての神棚と仏壇にお神酒を捧げ、夕刻になると神前の前の蝋燭に火を灯します。丹生川町の古民家に暮らす大谷信応さんは、現在でも昔のしきたり通り「歳取り」をしていました。家の中の神棚、御仏壇、恵比寿様と大黒様、かまどやガスコンロに宿る火の神様、臼、土蔵の中、作業場や車庫など合計13の神様に鏡餅と松飾り、お神酒と蝋燭をお供えします。

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夕方の早い時間に家族全員お風呂に入り身を清めた後、18時頃囲炉裏の周りに集まりました。家の主であるお父さんから家族へ、今年一年の労いの言葉をかけ、お酒を飲み交わします。

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年取り料理と共に、囲炉裏を囲む大谷さんご夫婦

宗和流輪島塗のお膳に並べられた料理は、一年で一番豪華な「ごっつぉ」(飛騨弁でごちそうの意味)です。豆や数の子、こぶなどの縁起をかつぐおめでたい料理はもちろん、飛騨ならではの姫竹ゼンマイ、こも豆腐なども並びます。また、出世魚であるブリは歳取り料理として有名ですが、昔は高価すぎて一般の家庭では「ふくらぎ(ブリの子ども)」や煮イカをブリの代わりとしていました。

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年取り料理

家族全員が集まり、家の主からの一年を労う挨拶の後に、盃にお神酒を頂き、家族団らんの時間を過ごします。23時を過ぎた頃から、近所のお寺の除夜の鐘と共に、新しい年を迎える緊張感が響き渡ります。

 

元旦の日の朝は、家族全員で近所の氏神様(神社)へ出掛けます。

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初詣(一之宮・水無神社)

集落の人が一同に集まり、神事を受けた後、薬師堂や道祖神にもお参りをし、家路につきます。

お正月初めての囲炉裏への火付けは、「今年一年まめに過ごせますように」という願いを込めて、豆殻を使います。「まめ」は飛騨弁で「元気」を意味します。起した火でお餅を焼くのは家長の仕事。お正月だけは、お母さんの家事を楽にさせてあげる心配りです。

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囲炉裏で焼いている餅

「祝い膳」の残りとお餅が、三ヶ日の食事となります。

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お雑煮と祝い膳の残りもの

 

 

飛騨の地に、お正月の終わりを告げるのは「どんど焼き(左義長)」。かつては1月15日に行われていましたが、現在は10日から15日頃、地域によって異なります。「どんど焼き」の日は、神社にて神事を行ったのち、忌火(神聖な火)で火を起こし、お正月に飾られた松飾り、しめ縄、しめ飾り、去年のお札などを燃やします。

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しめ縄や松飾り、去年のお札など

年末、門松を目印に降り、お正月の間、家に宿り、家内安全・五穀豊穣を祈って下さっていた「年神様」は、どんど焼きの火によって天に戻ると言われています。「年神様」の魂は、鏡餅に宿ると言われており、その鏡餅を食べることで一年健康に過ごせるという言われがあるため、どんど焼きの後にお汁粉を食べる集落もありました。

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忌火を灯した「どんどん焼」

 

 

飛騨の人が神様と過ごすお正月は、今年一年、健康に過ごすためのお祈りの期間。少なくなる風習の中にも、神様と過ごす時間が今もなお根付いています。

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