光と風の結晶 ‘寒干し大根’

岐阜県飛騨市神岡町内にある、標高1,000mの高原に集まった7つの集落、総称=山之村。神岡市街地から4、5キロの峠を登りきった富山県との県境に、人口150人程の集落が広がります。高山市内から車で約2時間。冬は特に、その道のりは容易ではありません。

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道路が今ほど便利になる以前は、冬には物流がほとんど途絶えます。雪が降り始めると作物は一切採れません。作物が実る次の初夏まで保存食を作る工夫が必要とされてきました。主に、秋に収穫できる「いも」「大豆」「大根」が、冬の間の貴重な食材でした。

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大根を干した「寒干し大根」は、山之村の気候を活かした保存食のひとつです。作る工程は「切り干し大根」と似ていますが、近年、生の大根や「切り干し大根」よりも栄養価が高いことで注目を集め、山之村の特産物として知られるようになりました。

 

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大根は、8月末に種まきをし、11月上旬に収穫を行います。品種は、山之村の気候に適した青首大根の一種を使います。

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11月上旬に収穫した大根は、凍らないように「大根活け」と呼ばれる穴に入れて保存をします。穴に藁を敷き、大根を置いた上にさらに藁を被かぶせ、土で覆います。そして、霜が降りて寒くなった頃に掘り出します。昔から寒干し大根作りは、一年で最も寒い「大寒」の日に作業をしてきました。現在は、販売用に沢山の寒干し大根を作るため、根雪が積もる12月末ころから作りはじめています。

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穴から掘り出した大根は、水で洗い皮を剥き、2cm程度の厚さに切り揃えます。薪をくべて、沸騰したお湯で茹でること約30分。 柔らかすぎると、干した時に落ちてしまうので、少し固いくらいに茹であげます。茹でた大根を串に刺し、日当りの良く、雪が吹き込まない軒先に並べて干します。昔は藁に通して干していましたが、カビの発生を防ぐために藁を使う農家が減り、園芸用の串を利用しています。この軒先の風景は、山之村の冬の風物詩となりました。

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寒干し大根の味に欠かせないのは、-20℃から-10℃の気温と太陽の日照り。雪の日ばかりでも美味しい寒干し大根は出来ず、たまに表れる太陽が大切な要素なのだそうです。また、乾燥中に雨が降ると腐りやすくなります。雪と晴れの天候の中で、約一ヶ月乾燥させると甘味が凝縮され、天日にさらすことでカルシウムが増え、栄養価が高まります。

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全国的に知られている「切り干し大根」は、通常10日から2週間干すと言われています。一ヶ月かけて干す「寒干し大根」が「切り干し大根」よりも栄養価が高い理由はここにあります。

 

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天日で乾かした後、ストーブの上で2、3日カラカラに乾かし、黄色から飴色へと色が変わると「寒干し大根」は出来上がり。通常、夏頃まで保存が出来ます。近年では、冷凍保存することでさらに長く保存が効きます。

食べ方は、味噌汁や煮物の具が一般的。水で戻した「寒干し大根」を千切りにし、他の野菜とドレッシングで和えてサラダにもできます。山の幸である猪や熊の肉と煮込むと、肉の油が大根にしみこみ美味く、すきやきやグラタンの具に入れることも山之村流食べ方のようです。大根を生から煮込むよりも早く調理できる「寒干し大根」は、急な来客にも対応出来るので主婦の強い味方でもあります。

 

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山之村の土壌で育った大根に、冬の光と寒風と凍み(しみ)が加わり、はじめて織り成す伝統食。 食料が少ない時代に生み出した「寒干し大根」のある風景は、自然への畏敬の念と共に、受け継がれてきています。