幸運を運ぶ飛騨絵馬

幸運を運ぶ飛騨絵馬

 

飛騨では、古来より馬は神の乗る神聖な動物でした。また、馬は人を守ってくれると信じられ、人々の心の支えでもありました。

人々は大切な馬を身近に置き、位の高い武士や皇族は生きた馬を神社へ奉納していました。江戸時代頃から、その風習が民衆に広まり、人々は木や土で作った馬を納めるようになりました。後に木札に書かれた絵馬、紙に書かれた絵馬を奉納することが一般化されていきました。神社の境内には、奉納された絵馬を展示するための絵馬殿も建てるようになりました。

桜山八幡の絵馬殿(高山)

また、飛騨びとにとって家族の一員のように大切な存在の馬。昔の家では、必ず玄関の隣の日当りのいいところに馬の部屋—馬屋(まや)がありました。馬は家の守り神でもありました。昭和30年頃までは、この飛騨地域でも1960年代まで馬を飼われている家が数件あったと聞きます。しかし、高度成長期に入り、馬の代わりに自動車が道を行き来するようになりました。今日では日常に馬の姿をこの地域で目にすることはほとんどありません。

 

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古川町の絵馬師、山口綏星さん。20歳の頃から40年以上絵馬を書き続けています。現在は飛騨地域で数名しかいなくなったという絵馬師、最近は版画や印刷が多くなっている中、いまも手書きで書き続けています。一枚描くのに約一日かかるそうです。山口さんの馬への愛情は、絵を見た人ならだれにでもわかります。手書きならではの色鮮やかと、馬の表情の優しさが山口さんの絵馬の特徴です。

馬の鞍には、米俵や宝船、小槌や松竹梅など縁起の良いものを描き、たてがみや尾毛も一本一本丁寧に書き込みます。書いている先からまるで馬が走りかけている風を感じました。

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馬の頭が家の玄関の内側に向くように飾ると、幸運が家の中へ掛け込むと言われています。家の造りがそれぞれの家で異なるため、左向きの馬と右向きの絵馬が用意されています。飛騨地域では、ほとんどの家やレストランの玄関で見ることができます。

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現在、古川町では1月15日の三寺祭り、高山市内では8月1日から15日まで山櫻神社にて、 絵馬市が行われています。飛騨の絵馬市は、この地域の民間信仰の風習を伝えるものとして大切に行われています。

生きている馬がいなくなった今日にも、ひだ人の心に馬は生き続いているのです。