雪国を飾る冬の花

飛騨 では、しめ縄や門松と並び「花餅」というお正月飾りが作られてきました。

 

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現在のように流通が発達していなかった頃、飛騨では、お正月に飾ることのできる花がありませんでした。そのため、秋のうちに枝や根株を拾い、年末についたお餅を花に見立てて付け、お正月の花の代用として飾る風習が続いています。また、飛騨一ノ宮では、蚕から取れる絹が貴重な現金収入だった時代、花餅を「繭玉」と呼び、お蚕さまの豊作を願い飾っていました。

 

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玄関に飾られている花餅。

昔の古民家には鴨居があったため、柳など柔らかくぶら下がる枝に花餅をつけ、鴨居にひっかけて飾っていました。花餅に使用する木は、夏頃から見立てておき、いらない枝を剪定していたといいます。近年建てられる家では、鴨居のある家が少なくなったため、ぶら下げる形の花餅ではなく、切り株を土台とした置く花餅へと変わりました。

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根株を使用した花餅。

山仕事が盛んだったころは、春夏に薪切りした木の根株を12月頃、掘りに出掛けました。中でも、「かすぐすぎ」という漆科の植物は春慶塗のように赤く光り縁起物として好まれていました。花餅用の木を見立てることも、一苦労だったといいます。現在では、山の手入れが行き届かないところが増え、根株が穫れることが少なくなりました。また、根株を使用しているものでも、チェーンソーを使用しているため、昔のものとは体裁が違うようです。

現在では使用する木には決まりがないものの、柳の他には、榎(えのき)は縁起が良い、欅(けやき)は固いので健康祈願となる、栗の木は家計のクリまわりがいい、など縁起の良い木を選んでいます。

 

 

飛騨地域では12月28日、家族や地域で餅つきをし、鏡餅と花餅を作ります。昔ながらの杵と臼を使った餅つきをする家は少なくなりましたが、餅米を蒸篭で蒸す風景は見ることが出来ます。

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昔ながらの石臼で、餅つきを行うご夫婦。

 

ついた一臼分の餅を平らに伸ばし、温かいうちに枝に巻き付けます。

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昼間でも 薄暗い古民家に、白ばかりの花餅は家中を明るくにぎやかにしました。現在は、室内が暗い家が少なくなったため、紅白の花餅や、黄色・緑などの色を使った花餅も作られるようになりました。出来上がった花餅は、大家の黒柱や玄関に飾り、家を華やかに飾ります。

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お正月が過ぎ、お餅が乾燥しポロポロと床に落ちてくるのが、子どもの楽しみだったそうです。落ちてきた花餅を集めておき、ひな祭りの日の揚げあられとしたり、田植えの時のおやつにしていました。

 

かつて、農家では自分の家で収穫できるお米を使い、年中行事として必ず行っていたことですが、近年ではお店で買って済ます家庭も多くなったといいます。高山の宮川朝市やスーパーなどで、地元の人たちの手作りの花餅を手にすることが出来ます。また、飛騨高山で30年以上作りつづけている「飛騨の花もち組合」では、生け花などにも使えるように様々な種類を作って販売しています。

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宮川朝市で花餅を売る「よしま農園」。

 

日本では、おもちをお正月やお祝い事などめでたい席や、お節句、お盆、彼岸などの季節の行事に作り、食することを習慣としてきました。餅米の一粒一粒がまとまり、ひとつの餅になる様を、多くの人や物の結びつきを意味しているといわれています。お餅は日本人の生活と共にあり、花餅も生活に色を添える一つ知恵。時代や地域が異なっても、健康祈願や五穀豊穣を祈る気持ちはこれからの人々の中にも脈々と受け継がれていくことでしょう。

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鴨居からぶら下がる、柳の枝を使った花餅。